ARTIST Interview 藤元 明× QUO

藤元 明

「地球は今、なかなかハードコアな世界。」
さまざまなアートプロジェクトを手がける中で、
一貫してエネルギーに興味があるという藤元明さん。
地球上のエネルギーのメタファーだという今回の作品について、
そして自身の活動について語ってもらった。

QUOカード

「予測不能に絵が成長していきます。
途中から見えてくるイメージに
導かれていくように。」

今回、カードにした作品の
テーマについて教えてください。

僕たちは、エネルギーを地中から掘り起こして、自分たちの快適さに置き換えている。地球上の質量は一定のまま、消えずに、たとえば温暖化のような別の形に変化していく。そのエネルギー、つまり熱が置き換わっていくのを、四角いタブロー(板絵・キャンバス画)の中で描いたのがこの《Replacement》シリーズなんです。

この作品はドローイングを別々のパーツでつくり、あとで紐のように入れ子に組み合わせるコラージュによる絵画です。それで時系列や関係性を入れ替えて、イメージではなく違和感を描いています。

コラージュの構成で階層が入り組んでいて、ここでは一番上にある色が、隣では他の色の下になっている。本来、液体である絵の具の重なりは必ず時系列になるはずなのに、《Replacement》シリーズでは、物理的に時間を置き換えています。どういう状況?という違和感を、Photoshopではなくアナログでやってみようと。手法としては、クッキングペーパーのように剥がれやすいベースにドローイングし、乾いたあとに剥がして、下地にドローイングパーツを編むようにコラージュして貼り付けていく。絵の具はあるタイミングまで伸びるので、曲げたり同じ色をつなげたりと、さまざまな要素を組み合わせるのが面白くて。

人間ってなぜか、しぶきやヒビといった“現象”に惹かれるんです。ただ、いわゆるドロッピングやスプラッシュ系の絵の具をぶちまけるような絵画って、もう既視感がありすぎる。でもこの《Replacement》シリーズは、見たことがあるようなのに、よく見ると動画のストップモーションみたいな違和感がある。最初から完成のイメージがあるわけではなく、パーツの都合でつなげていくので、自分でも予測不能に絵が成長していきます。途中から見えてくるイメージに導かれていくように。

作品の説明をする手元の写真
インタビューを受ける藤元 明さん

「盤石に生きられない世界を
表層的にごまかして、
見えないようにしてるんだと
感じています。」

藤元さんの中で、
エネルギーに対する思いとは。

僕の活動は、根本的にエネルギーがテーマ。社会的なものも物理的なものも含めて、エネルギーとそれに関わる人間の振る舞いに興味があるんですよね。前の大戦だって今だって、戦争になればエネルギーの話が必ず出てくる。
でも一方で戦争の比じゃないくらい、自然現象のエネルギーって大きいと思う。今信じられないような現実が起こっていて、異常気象って騒いだりしているうちに、本当に恐ろしいことが起こってしまうんじゃないかと。現状、世界の延長線上に、良くなる理由がどこにある?人類が科学の進歩で解決できると信じているが、本当はそうではなかったとすると、自分の子供たちが生きる世界はとても過酷なものになってしまう。そんな未来を引き継ぐことになりそうで悶々としますね。

実は、地球は今、なかなかハードコアな世界なんだと思っています。かといって、ふつうに暮らしている人が何も考えないで生きられるのも現実。自分はなぜ生きてる、なぜここに生まれたんだと禅問答しても、結局は生きるしかない。ただ盤石に生きられない世界を表層的にごまかして、見えないようにしてるんだと感じています。海ごみは、そういう問題が見えている現象なので、象徴的だと思います。

作品「Last Hope Sun#32」を海岸の漂着ごみのそばで制作する様子

浜での制作の様子を動画で見ました。

なんで浜でやるかというと、量が多すぎるし、道路までの距離が遠くて持っていけない。そういう機械が入れない場所にこそゴミが溜まるんです。逆に言えば、きれいな浜は車が横づけできて、観光資源として公金を使って清掃している浜。ごみは人間が拾っているだけで、拾わなかったらどこにでもある程度溜まっていくんです。でも誰も行かない場所には価値がないから、永遠に清掃されない。そういう社会的背景がわかってきたんです。

海ごみ問題は完全に“解けない問い”。漂着ごみは、一般ごみの回収→焼却 or 埋立てというシステムから完全に外れ溢れ出たものなので、公的に解決できないから溜まっていきます。なんとかするならプライベートしかないけど、誰が予算をだすのか?産業革命以降、海にはプラスチックが1億5千万トン以上流出したと言われていて、分解しないでどこかに在る。なので、拾うだけでは済まないし、出さないようにするにしても単純な判断ではいろいろ問題がある。一人のアーティストとしては、それを解決するっていうことはあり得ない。ある意味無責任かもしれないけれど、エビデンスに基づかなくても、本質的な問いそのものを可視化する制作活動を続けています。

「2021#Tokyo 2021」/ TOKYO 2021 会場、旧⼾⽥建設本社ビル、京橋東京/ 2019

「作品もだけど、アーティストの
人柄や生き方そのものも面白い。」

もう一つ、藤元さんが力を
入れているプロジェクト「ソノ アイダ」について。

「ソノ アイダ」は“都市に生まれた隙間を、アートによって空間メディアに変える”というコンセプトで2015年から続けているアートプロジェクトです。現在(2023年夏まで)の「ソノ アイダ#新有楽町」は、三菱地所の有楽町エリアでビルの空スペースを活用し、次のテナントが入るまでの間、アーティストがいる風景をコンセプトに、ショーケースやアーティストレジデンス、展覧会企画など東京の真ん中でいろいろとチャレンジしています。

東京という都市に入り込むようになったきっかけは、2016年から始まった「2021」というプロジェクト。オリンピックの開催は決まったけれど、世の中には2020年までをターゲットとした視点しかなく、それ以降どうするか全く議論されていなかった。だからその先を考えようというテーマで、2021という大きな張りぼてオブジェクトをつくって、国立競技場建設現場の前やいろいろな場所に置くというパフォーマンスを繰り返しました。
2019年にゼネコンの戸田建設さんから、建て替えになる古い本社ビルを活用して何かやってくれないかと声がかかった。そこでアーティストや建築家を70名くらい集めて、“開発とアート”というテーマで「TOKYO 2021」というアートイベントをやったんです。

Replacement #20 / 2022

「開発とアート」の関係とは。

基本的に、今の東京の開発モデルは超高層なんです。良い立地に床面がたくさんできれば、賃料で必ず儲かり、投資が集まる。でも文化的なものってその賃料変化に対応できず、都会で活動できなくなっていくんです。ジェントリフィケーションが起こって、面白い人たちは耐えられず出ていく。世界的に起きていることなんですが、東京でもそれが起こっている。

世の中の価値観は賃料とか不動産が強いので、その価値を上げるために都市は全てが動いてしまう。ただコーヒーチェーンとか高級なお菓子の店とか、ハイブランドなお店ばかりを綺麗に並べていくと、どこの通りも一緒になってその街がつまらなくなってしまう。渋谷も新宿も秋葉原も池袋もだんだん似てきたでしょ?

このエリアもオフィスだけなら殺風景になるけれど、三菱地所は昔から三菱一号館美術館やアートイベント誘致などを続けていて、有楽町ではこれからの開発の中にオルタナティブな場所やアーティストを取り込んでいこうという風潮になってきた。そこで僕や他のアーティストたちが選ばれて、「ソノ アイダ」や「YAU」といったプロジェクトがこのエリアで始まるようになったんです。

「ソノ アイダ#新有楽町」では、
アーティストの制作風景が
外から見えるんですね。

アーティストは制作に広い場所が必要なこともあって、都心にいられなくなって完全にドーナツ化してしまった。都心にはアート作品は集まるけれど、アーティストが一人もいない。
そんな状況の中で、「ソノ アイダ」ではアーティストが都市の真ん中にいる。経済合理性からの価値観のシフトを起こそうとしているわけです。作品もだけど、アーティストの人柄や生き方そのものも面白い。誰かのスタジオに遊びに行くと面白いんですよ。知らない人でも見に来たら「何なんだこれは?」と思う。それぞれの全然違う個性があって、アーティストがつくるスタジオってのが一番面白いんです。

ソノ アイダ新有楽町ARTISTS STUDIO #01 (藤元明/ 森靖)での
Replacement制作の様⼦/ 2022
ソノ アイダ新有楽町ARTISTS STUDIO #01 (藤元明/ 森靖)での
Replacement展⽰設置の様⼦/ 2022

その取り組みを、
今の状況をつくってきたディベロッパー自身がやるというのが面白いですね。

高度成長以降、ディベロッパーは経済合理性の価値観でやってきた。その大本にいる人たち自身が、面白くないってもう気づいているんです。でも他の価値観を具現化できないから、どうしたらいいのかわからない。
その点、アーティストは金があろうがなかろうが、勝手にやるんです。予算がついてなくても自腹で勝手にやる。普通の店舗は、前もってお金と安心ができないと無理だから、半年に一遍ぐらいしか変わっていかないですよね。街をつくる建築家にしたって、規模的に予算がつかないと結局難しい。だけど僕たちは勝手にやる、変わり続ける。規模は小さいけど、空間に対して別の解き方をもっている。そういう面白さ、別の価値観が都市に入ってくることそのものが新しいと評価されて、今も続けられています。

そういったプロジェクトを進める上で、
何が大事になるんでしょうか?

実際アーティストだけでは難しく、理解者が必要です。今、そういう人は増えていると思います。これだけ情報があると、わかった気になって麻痺してしまい結局似たようなことを考えてしまう。それは既存の価値観とルールの中でやろうとするからです。見たことないことをやるんだったら、今までの考え方じゃないことをやらなければ出てこないと思います。

TOKYO 2021のときに面白かったのは、戸田建設の担当にすごい人がいたんです。ふところが深くて一緒に怒られてくれるような人で、「やっちゃいましょう、なんかあったら僕が怒られりゃいい」と。そういうとき保身を優先して、怒られるとか出世に響く、といってると何にも変わらない。そうじゃなく、物事の目的を設定して、同じリスクとモチベーションで一緒にいける人がいれば、もう業種関係なく、なにかひとつ超えられますよね。そういう覚悟でやっていると、似た感覚の人との出会いがある。黙って見てる人には別に誰も集まらないですよ、それぞれの役割でプレーヤーになれば良いと思います。

インタビューを受ける藤元 明さん

人との関係をつくる上で、
贈りものをすることはありますか?

すごくお世話になった人に作品をあげる、ということは僕もありますし、他のアーティストからもらったこともあります。それこそゴッホの時代から、お金の代わりに作品で免じてくれ、という話もある。アーティストの仲間内だと、作品同士を物々交換するような習慣は昔からあるんです。

今回のQUOカードを、
藤元さんならどのように使いますか?
また、どのように使ってほしいですか?

自分の制作やアートプロジェクトの中でお世話になった方々に、気持ちとして渡すという使い方ができると思います。周りにいる人たちへのちょっとしたお礼や、もし迷惑をかけてしまった時にはお詫びのしるしとして。

今回のカードは、作品そのものではなく、コンセプトを切り取っている。なのでこのカードを通して、自分の考え方や想いをちょっと“おすそ分け”するような感覚なんです。作品がデザインされてはいるけれど、あくまでも使って消費するという役割のカード。だから、飾っておくというよりは、どんどん使ってもらいたいですね。

カードの元になったReplacement#16 / 2022

「その塔は、ごみがなくなるまで
延々と伸び続けるんです。」

今、求められている
アーティストの役割とは?

僕としては、別の価値観が存在することを見せる、気づきをつくるということ。アーティストって面白くて、業種とか立場を簡単に超えられる。国なんか余裕で超えていくでしょう。どんどん横跳びできるし、ヒエラルキーにも関係ない。なぜなら価値観が違うからです。

一方で、作品をつくるのとは別の能力なんですが「つないでいく」力も求められているかもしれません。美術の業界ではギャラリストとかキュレーターが外接的役割を担いますが、実はアーティストはそこもやる、っていうことが必要。世界で闘ってるアーティストはみんな自ら企画を提案したり、プロデュースをしたりしています。独自の目的達成のために何十人雇ったりとか、規模がでかいし、強いんです。もちろん、一つのキャンバスに向き合い続け絵を描くとか、彫刻という問いを延々と掘り下げるという、美しさを求める世界観がなくなることはありません。別の意味で世界には必要です。それぞれの闘い方がアーティストにはありますから。

海外に比べて日本のアートシーンは。

閉じたよね、日本。貧乏になったからね。僕らが若いときより日本が貧しくなったからか閉じてると感じます。若いころはアーティストに限らずみんな、海外絶対行ってやるって思ってた。でも今は、みんな携帯とかで欲求が満たされてるでしょう。つながってたり、時間も潰せる。僕の時なんて携帯はただの電話だもん。新しいものを得るには、自分が動かないと。そういう時代だったんです。でもこれから開いていく予感はありますよ。
僕は1999年ごろイタリアのFABRICAというコミュニケーションリサーチセンターに在籍してましたが、そこに行った決定的な面白さは、自分を知れたこと。同世代の外国人の中にいながら、何が問題でどういうことを世界は考えているのか、みたいなことに触れられることだったんです。そこでは、今で言えばSDGsとかで語るような人権や差別などのイシューを題材にしていて。アートとしてではなかったけど、社会への問いみたいなことをモチーフにして、提案したり具現化したりというのはその時からですね。

では、藤元さんがこれから
提案していきたいことは?

ひとつは海ごみで、「バベルの塔」を建てたい。
この「海のバベル」プロジェクトに関しては、今年の展覧会で発表したんです。海岸に漂着ごみが集まるって、見方を変えれば勝手に資源が集まり続けるということ。それを溶かして、塔を建てる。その塔は、ごみがなくなるまで延々と伸び続けるんです。バビロニアのバベルの塔の神話では、人々が塔に富を集めて立ち上げたことで神の怒りを買って塔が崩壊するけれど、この「海のバベル」は神の怒りを買うことはない。だって富を集めてるんじゃなくて、勝手に集まってるわけだから。それを平べったいままにしているんじゃなくて、アーティストが立ちあげる。すごくエネルギーが必要なスケールの話だけど、これを今、世界中に建てていくアートプロジェクトをしたい。

「海のバベル」concept image

もうひとつは、絵画が好きだから、すごくエネルギーを感じる、大きなものがつくりたいという単純な欲求がありますね。抽象画って、その絵がイメージとして素晴らしいとか上手いとかではなく、その人に何をもたらすかが大事なんだと信じています。絵自体を見るというより、絵から何かを感じているその自分を見るんです。絵の中に完全に取り込まれて、浴びるみたいな状態になれるのが理想的な作品。そういう絵が描きたいですね。大きいサイズの絵画は本当に難しいけれど。

インタビューを受ける藤元 明さん
藤元 明さん

藤元 明 Akira Fujimoto

1975年東京生まれ、東京在住、東京藝術大学デザイン科卒業。1999年コミュニケーションリサーチセンター FABRICA(イタリア)に在籍後、東京藝術大学大学院を修了。同大学先端芸術表現科助手を経て、アーティストとして社会や環境の中で起こる制御出来ない現象をモチーフに、社会へと問いかける展示やプロジェクトを立案・実施。様々なマテリアルやメディアを組み合わせ作品化している。主なプロジェクトに『ソノ アイダ』、『海のバベル』、『FUTURE MEMORY』、『2021』、『NEW RECYCLE®』など。

アートでつながる。アートをつなぐ。

アーティストの手から生まれた作品を、
あなたの心へ、そして大切なだれかへ。
35周年を記念した、特別なQUOカードです。

QUOカード
QUOカードケース

ARTIST Interviews

アートでつながる。アートをつなぐ。 Akira Fujimoto × QUO